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EP25「不死鳥、舞う」

 -8/19 PM11:00 ARS本部 司令室-

淳「司令・・・その、アルヴィスネイトを勝手に使用してすいませんでした!」

 僕は司令からの突然の呼び出しで、この司令室のドアをくぐっていた。入るなり僕は勢いよく頭を下げた。

剛士郎「いやいや佐久間君、私はアルヴィスネイトの使用を怒って呼び出したのではないよ。
    頭を上げてくれたまえ。」

 驚いた様子で司令は言った。てっきりこの事での呼び出しと思っていたから拍子抜けだ。

淳「はぁ・・・では、他になにか・・・?」
剛士郎「佐久間君は、この半年間のリネクサスのブランクをどう思う?」
淳「はい。リベリオンを初出撃させた時に、改修されたリデンスキャフト、そしておそらくヘカントケイルのコアユニットと
  思われる機体が確認できましたけど、それ以外は・・・。」
雪乃「そしてつい先日現れたエルゼの魔神機エデン。
   単純な考えですが、今のリネクサスの公になっている強敵の存在はその3機に絞られます。」

 書類を見ながら有坂さんが言う。確かに僕らARSはこれまでにエインヘイト隊・カタストロファー・タウゼンファビュラーを
倒し、さらにはディスペリオンは夜城君の意思でこちら側についている。

淳「まさか、敵の増援が来た・・・・とかですか?」
雪乃「悪魔で推測ですが、未来の技術では何万、何億光年の距離を航行するのには今と比べてさほど変わりはありません。
   もしもリネクサス本体がいる星から増援が来るとしたら、半年という時間は好機です。」
剛士郎「現状では数で押しているとはいえ、これからの戦いで疑似機神は戦力外となってしまう可能性がある。」

 珍しく司令が深刻な声で言った。

淳「確かにゲッシュ・フュアー、アーフクラルング、ルージュは機神には劣るかもしれません。ですが、彼等の意志は本物です。
  彼等に戦いを降りろとは言えません。それに言っても降りることはないでしょうし。」
剛士郎「珍しく佐久間君はマイナス方面の考え方をするな。これもアルヴィスネイトの知恵のお陰かな?」
淳「・・・と、言いますと?」
剛士郎「全知を司る機神の力を得た君なら、できるんじゃないか?"完全な機神"を造ることが。」
淳「!?」

 僕は素直に驚いてしまった。疑似機神を機神にするなどということは到底不可能だと思っていた。しかし、それは以前までの話しで
アルヴィスネイトのドライヴァーとなった僕なら、それを可能にすることができるかもしれない。

剛士郎「資金、人員は惜しみなく出そう。どうする、佐久間君?」
淳「僕は・・・。」

 考えるまでもなかった。体中が期待と希望で満ち溢れ、まるで遠足に行く子供のように興奮している。

淳「もちろん、やらせていただきますよ、司令!その代わり・・・2つ条件があります。」
剛士郎「ふむ、聞こうか。」
淳「先日エイオスを修理していた時にふと頭の中に流れ込んできたことを試したいってことと・・・。」

 僕はこのチャンスを逃すまいと、なかなか言い出せなかったことを思い切って言った。

淳「独房に居る鳳覇 茜さんの協力もお願いします。」


 EP25「不死鳥、舞う」

 -8/20 AM09:00 ARS本部 機神・疑似機神ハンガー-

 休日の朝っぱらというのに、俺は佐久間の電話で目が覚め、おはようの二言目にはすぐに本部に来てくれと言われた。地下へと向うエレベーターに乗ろうと、
俺は下行きのボタンを押した。数秒後にエレベーターが到着し、ドアが開く。中には見慣れた少女が書類を抱えてポツンと立っていた。

輝咲「あ、暁君。」
暁「おはよ、輝咲。」

 軽く片手を上げると、俺は通路とエレベーターの境界線をひょいと飛び越えた。

輝咲「おはよう。昨日は本部に来なかったから二日ぶりだね。」
暁「それがさ、俺が山篭りしている間に学年が変わったから、いろいろと手続きが大変でさ・・・。
  レドナも必死こいてたよ。結衣は今日も単位獲得の卒業試験らしいけど。」

 軽く言ったが、本当に書類・書類・テストの山で、その日一日はARSの事なんて考える暇すらなかった。ただし、本来留年であるところをなんとかしてくれた
のはARSの機密工作員とかその辺であるのはなんとなく分かった。ちなみに真は防衛政府に所属していた間にあれこれやっていたらしく、普通に高校3年生となっていた。

暁「それはそうと、どうしたんだ?その書類。」

 両手で抱きかかえている書類の束を見て俺は言った。

輝咲「うん、佐久間さんがすぐにハンガーに持って着てっていわれて、資料倉庫から機神と疑似機神のデータを運んでる途中だよ。」
暁「俺も持つよ、ちょうど佐久間さんに呼ばれて俺もハンガー行く途中だし。」

 半分とは言ったものの、俺は7割りぐらいの書類を輝咲から取った。

輝咲「ありがと、暁君。」
暁「いいっていいって。にしても輝咲を雑用に扱うなんて、一発エイオスで殴らないといけないな。」
輝咲「私がここでお世話になってるから、自分にできることは何でもやるって決めたの。
   だからそこまでしなくても・・・いいかな。」

 クスっと笑って輝咲が言う。
 そうこうしている内に、エレベーターが止まり、ハンガーへと到着した。扉が開くなりいつもの倍以上いる白衣を来た研究員やら、つなぎを来た整備員やらで
軽いお祭り騒ぎだった。そんな中、佐久間の声があっちこっちから聞こえる。

淳「おっ、榊さんありがとう!適当に机の上に置いといて!」
輝咲「は、はいっ!」

 人混みの中から聞こえた声に、輝咲は俺が持った書類を受け取ると空いている机の上に書類を置きに行った。

淳「鳳覇君はエイオスに乗って~!」
暁「この人混みの中でかよ・・・。」

 目の前に広がる人の海に、俺は初めてエイオスが一番奥のハンガーにある事を不便に思った。

暁「いっそここでサモンしてやろうか。」
淳「エイオスにはコードがいっぱい繋がってるから、サモンなんてしたらアルヴィスネイトで殴るぞ~!」

 俺の呟きを人混みの海のどこからか佐久間が返した。しかも、さっきのエレベーターでの話を聞いているかのようだった。

暁「あーっ!こなりゃヤケクソだ!」

 覚悟を決めてその海に飛び込んだ。
 数分後、何回足を踏まれ、何回人とぶつかり、何回誰かに掴まれたかも分からないぐらいの修羅場を切り抜け、俺はやっとエイオスまで辿り着いた。
エイオスの純白の装甲に移る俺の髪は、いつも以上にボサボサになっていた。大きく深呼吸して俺はエイオスのコクピットへと端の階段を登った。

暁「佐久間さーん、乗りましたー!」
淳「よぉし!!それじゃ、皆エイオスから離れて!」

 その声がハンガーに響くと、人の波が一気にエイオスから離れた。

暁「いったい何だ・・・?」

 そう思った瞬間、エイオスの左肩の緑色をした結晶が光りだす。綺麗だなと思ったが、徐々に光は眩しさを増して行き、遂には凝視できないほどに
なった。それからやっと光が落ち着いたかと思うと、エイオスの左肩を中心として円状に空間が捻じ曲がっていた。

暁「な、何だ!?」
淳「エイオスの腕をその空間の中に入れてみて!何か感触があったら引っこ抜いて構わないから!」
暁「わ、分かりました・・・けど。」

 この空間に手を入れたらエイオスの腕が捻じ曲がったりしないだろうか、そんな不安に駆られた。だが、ためらうわけにも行かず、俺はエイオスの左腕を
その空間の中に入れた。暗闇の中で何かを探すようにエイオスの腕を振り回す。すると、鋭い爪が何かに当たる音がした。つかめる所を探して、一気にそれを
空間から引きずり出す。そしてその姿にハンガーにいた一同は驚愕した。空間から取り出した黒い物体に目が釘付けになる。

淳「やっぱりね。」
暁「コイツは・・・!?」

 取り出したそれを、俺はエイオスの前に慎重に置いた。人型というには問題があるかもしれないが、手足と見られなくも無い四肢を有するそれは、機神か
疑似機神かであった。装甲は一切付いておらず、機体骨格のみといった状態であった。

暁「佐久間さん、何なんですかコイツは!?」
淳「きっと未来の鳳覇君からの置き土産さ。ま、機神か疑似機神か・・・はたまた魔神機かは解らないけどね。」

 取り出したそれに佐久間が近づく。俺もエイオスから降りてその物体を間近で見ようとした。するとコクピットの端っこの方に白い紙切れがあるのを見つけた。

暁「・・・ん?」

 エイオスに乗る時は周りのスイッチやらレバーやらを見らずとも戦い方が分かっていたため、コクピット全体を見ることは無かったし、未来の自分を打った時の
血痕も戻ってくる前に向こうの整備士たちが拭き取ってくれたらしいので、今まで全然気付かなかった。
 見ると殴り書きされた手紙のようだ。

暁「一体誰が・・・。」
淳「鳳覇く~ん、ちょっと降りてこれに乗ってくれないか~!?」
暁「何で俺が実験台みたいなことしなくちゃ・・・・ってそりゃそうか。」

 独り言を呟きながら俺は手紙をポケットに入れてエイオスから降りた。得体の知れない機体なら、とりあえず何にでも乗れるX-ドライヴァーである俺が乗るのが
当たり前だろう。実感はあまり無いが、本当にX-ドライヴァーって凄い存在なんだなぁと思いながら俺は階段を降りていた。
 横たわる物体の胸と思われる位置までくると、黄色いレンズの胸が飛び出し、中のコクピットを露出させた。

淳「熱烈歓迎ってやつだね、X-ドライヴァー君。」
暁「あんまり笑えないんですけど・・・。」

 ニコニコしながら言う佐久間に苦笑して答えた。俺はコクピットの端を持つと、ひょいと飛び乗った。

暁「よっと。」

 そいつの体勢ゆえにちょっと斜めっているコクピットの椅子に座り、両手のレバーを握る。頭に流れ込んでくる情報にももう慣れたもので、恐怖感よりも期待感が
湧き出してくる。

淳「とりあえず向こうの開いてるハンガーまで動かしてくれる?」
暁「りょ~かいと。」

 無意識のうちに俺はその機体を自立させハンガー内を歩かせていた。固定ハンガーのところまで行くと、足元で赤色灯を持った整備士がオーライ、オーライと
誘導してくれた。

淳「はい、お疲れさ~ん。後はこっちに任せて帰っていいよ~。」
暁「そんだけかよ!!」

 コクピットの中で盛大な突っ込みを入れた。

淳「まぁまぁ怒らない怒らない、榊君の使用権限は君に上げるからさ。」
暁「本機でエイオスで殴ってやろうか・・・コイツ」

 今度こそ聞こえないように呟き、俺はその機体を降りた。

輝咲「暁君お疲れ様。」

  降りてから機体に群がる研究員の波を潜ると、輝咲が出迎えてくれた。

暁「まったく人使いが荒いぜ・・・。まさかエイオスがあんなの隠してるなんてな。」
輝咲「うん、私もびっくりしたよ。」
???「私の推測だけど、あれは機神であり、未来の暁の置き土産ね。」

 懐かしい声が聞こえてきた。俺は振り返ると共に声を漏らした。

暁「御袋・・・。」
茜「こうして面と向って会うのは久しぶりね、暁・・・。」

 ARS奪還作戦の時に、技術協力として当時の新防衛政府に潜り込んだ佐久間が会わせてくれた時以来だ。しかもあの時は洗脳されているとは言え、裏切った御袋を
立ち直らせるためにグーで殴ったっきりだ。あれから御袋はエイオスの凍結を解除させ、奪還に協力。奪還後は自分の過ちを償うために、そして何より俺たちを未来に
置き去りにさせようとした事への恐怖感から、自ら独房入りを希望していたらしい。

茜「それと、もうこんな私を御袋だなんて呼ばなくていいわよ。薬で洗脳されていたとはいえ、私は取り返しの付かないことをしたわ。」
暁「・・・でも、もうこうやって呼ぶのに慣れてるしな。
  それにこの前グーで殴ったので俺の中では全部チャラってことにしてるけど。」
茜「そう・・・それじゃ、もう少し親らしくしてみようかしら。」
暁「今までどうりでいいよ。何かあれについて分かったら教えてくれよ、んじゃ。」

 俺は片手を上げて、エレベーターへと向った。

茜「えぇ、それじゃ。」

 御袋も研究員の海へと飛び込んでいった。

輝咲「せっかく会えたのに、お話しなくていいの?」

 エレベーターに向う俺の横を歩いて輝咲が聞いた。

暁「何ていうか、話辛いんだよなぁ・・・。あんな事あった後だし。」
輝咲「暁君がARSに来て間もない頃の2人の会話は、私凄くうらやましかった。
   でも、なんだかさっきの会話はトーンが低かった気がするよ。
   あんな事があった後だからこそ、しっかりお話しないといけないんじゃないのかな?」

 そりゃそうだと反論できないほどの正論。幼い時に両親を亡くした輝咲には分からないだろうが、そうすることは一番手っ取り早く、
一番困難なことであることは分からないだろう。俺は言葉に出さなかったが、そう思った。

暁「そうだな、また機会があったら話してみるよ。」

 エレベーターの入り口に着き、上の階へ上がるボタンを押した。どうやらエレベーターは俺たちが来て以来動いていないらしく、すぐに扉が開いた。

輝咲「これからどうしよっか?」

 何階のボタンを押すか迷った輝咲は俺に聞いた。

暁「ん~、そうだな・・・別にこれから予定はないし・・・?」

 ふと俺はポケットの携帯を見てみると不在着信とメールを受信していた。開いてみるとレドナからだった。

-

 突然電話して悪い。 副司令に聞いたが暁もARSに居るんだろ? 暇ならシュミレーションルームまで来てくれ。

-

輝咲「夜城君、どうしたのかな?」
暁「真じゃないから、馬鹿なことじゃないと思うけど・・・。とりあえず行ってみるか。」
輝咲「了解!では、上へ参りま~す。」

 輝咲はニコっと笑うと、エレベーターガールの真似をしながらシュミレーションルームがある階のボタンを押した。


 -8/20 AM09:32 ARS本部 シュミレーションルーム-

レドナ「お、来たか。」
佑作「よっ!」
かりん「おは~。」

 シュミレーションルームのある薄暗い部屋に入ると、妙な組み合わせの3人が居た。

輝咲「おはよ~。」
暁「おはよ。・・・ところで、どういったご用件でこの面子を?」
レドナ「あぁ、この半年間俺たちは新防衛政府という第三の勢力を相手にすることばかりを考えていた。
    そしてつい先日、その戦いにも終止符が打たれ、一世間的にみれば平和になったわけだ。」

 たしかに、色々とごたごたがあったが、これまでの多忙な生活に比べると・・・ましてや半年の大半を基地の中で過ごしていた俺と輝咲と数名の
スタッフにとって、さらにはレドナ達のように独房に監禁されていたことに比べると、今という自由な時間は平和そのものだった。

レドナ「だが、俺たちはARS。本命はリネクサスを相手にしなければならない。そしてそのリネクサスはついこの間まで活動を停止し、
    世界に対して攻撃をしかけることはなかった。
    あいつらが単にこの地球を征服したいだけならば、この仲間割れをしているチャンスを薄々見過ごすわけがない
    しかし現にリネクサスは何らかの大きなアクションを起こす事は無かった・・・。」
輝咲「つまり、この半年間はリネクサスにとって大きな準備期間となっていた・・・ということですか?」

 察した輝咲が結論を言った。それにレドナは頷く。

レドナ「もしかしたらすでにリネクサス側はいつでも地球を征服できる状況を構築している可能性が無くも無い。
    となると、リネクサスとの最終決戦もそう長い話しじゃないだろう。」
佑作「ってことで、俺たちも本調子で頑張っていかないとヤバいんじゃないかな~ってことで――」
かりん「長いバカンスで鈍った感覚を模擬戦で取り戻そ~!って話しになったワケ。」
暁「んで、俺がその敵役をやらされるってわけっすね・・・。」
???「そのと~りっ!さすがX-ドライヴァー君は察しが早い!」

 シュミレーションルームの奥の端末から若い女性の声が聞こえた。黒いショートカットのその人は椅子から立ち上がるとこちらへ向って来た。
年齢は30ぐらいだろうか。うちのメカニックよりかはまともな人間そうだった。

早百合「初めまして、旧防衛政府メカニックから転属してまいりました"花山 早百合"です!」
輝咲「榊 輝咲です、よろしくお願いします。」
暁「鳳覇 暁です。・・・あの、どこかで以前お会いしました?」

 どこか見覚えのある姿に俺は聞いた。

輝咲「あ、暁君も?」

 どうやら輝咲も同じ事を思っていたらしい。

早百合「え~、私そんなに有名かな~、あははは~。」
暁「あっ!!」
輝咲「あっ!!」

 思い出した俺たちはお互いに顔を見合わせた。未来で出合った輝咲の先生"花山 梓"のことを。年の関係からいくと、きっと祖母に当たる存在
だろう。

早百合「え~何々!?すご~く気になるんだけど。」
暁「あ、いや。その・・・、人違いでした、あは・・・あはは・・・。」

 さすがに人の未来を淡々と教えていくのは不味いだろう。俺は輝咲とアイコンタクトしながら話しを終わらせた。そしてレドナを見る。

レドナ「役者も揃ったし、そろそろ始めよう。」

 なんとなくレドナも察してくれたようで、すたすたとシュミレーション用の長方形の疑似コクピットにのって、ハッチを閉めた。

かりん「佑作、次ミスったら帰りにお昼奢ってもらうからね。」
佑作「ぅ~、了解っす。」

 2人もコクピットのハッチを閉めた。正面のモニターを見てみると、左腕の無いディスペリオンがゲッシュ・フュアーと、その背中のカノンを操っている
アーフクラルング諸共ドラグーンで串刺しにしている光景が映っていた。どうやら2on1をやっていたらしい。

早百合「そうだ、輝咲ちゃんも一緒にやってみたら?一応サンク・・・アルファードのドライヴァーなんでしょ?」
輝咲「わ、私ですか?」
かりん「ま、何事も経験だしいいんじゃない?ただし、輝咲ちゃんはアタシらのチームにもらうけどねっ。」
暁「ちょっと俺とエイオスを過大評価しすぎてませんか・・・。」

 俺はそういいながらも疑似コクピットに乗り込んで電源を入れた。

佑作「機神2体がこっちなら、"あかつき"なんて瞬殺だね。」
暁「ゆ~さく~、お前からまっさきに潰してやる~。」

 レバーをぎゅっと握って呪う様な声で俺は言ってやった。

輝咲「そ、それじゃあやってみます。」

 輝咲もコクピットに乗り込んだ。

早百合「よーし、それじゃ模擬戦スタート!」

 画面に戦闘フィールドが表示される。数キロ先に、アルファード、ディスペリオン、ゲッシュ・フュアー、アーフクラルングが見えた。

かりん「肩の力抜きなよ、実戦じゃないんだし。それにもし実戦でもカレシさんが死ぬ気で守ってくれるし~。」
佑作「よっ、お熱いねぇ~!」
暁「だだだ誰がだよ!!!」
輝咲「さ、桜さん!」
かりん「あ~っそ、じゃあ暁は輝咲ちゃんの事好きじゃないんだ~。」

 その時俺のモニター画面が一瞬にしてプツンと切れた。

暁「・・・へ?」
レドナ「無駄話のしすぎだ。」
佑作「早ッ!!」

 俺は事の真相を確かめるべく俺はコクピットを開けて正面モニターを見た。見るも無残にエイオスがドラグーンに突き刺さっている姿に俺は驚愕した。

暁「レドナ、これは酷すぎだろ!」
レドナ「花山さんからスタートの合図はあったが?」
暁「ちっきしょぉぉっ!!もう一回だ!」


 -同刻 神奈川県 静揺高校 屋上-

陽子「ごめんね、こんな所に呼び出しちゃって。」
静流「いや、構わない。」

 私達が以前通っていた学校。しかしアビューズの事件から廃校になり、取り壊しも行われぬままになっていた。
 私は陽子からここで待っていると言う主旨のメールを貰い、この場に来た。校舎の各所はボロボロになり、劣化していたが、この屋上だけはそこまで
大きな変化はなかった。

静流「あれからどうしてたんだ?」
陽子「珍しいね、神崎君が個人的なことに質問してくるなんて。」
静流「答えづらいなら無理には言わなくていい。」

 陽子はさび付いたフェンス越しに町の風景を見ながら言った。

陽子「私・・・ずっと神崎君に謝りたかった。」
静流「・・・。」

 陽子の蒼く長い髪が静かに風に揺れた。

陽子「私を守るために精一杯してくれたのに、あんな事言っちゃって・・・。
   私どうかしてたよ・・・。」
静流「謝るのは私の方だ、あの時、この場所でした約束を守れなかった。」
陽子「私を・・・幸せにしてくれるっていう約束?」

 フェンスにもたれかかって、陽子は私を見た。私はただ黙って頷いた。

陽子「でも、あの時は驚いちゃったなぁ。まさか神崎君の将来の夢が私を幸せにする~だなんて。」
静流「悪かったな、青春じみた臭いセリフで。」
陽子「ううん、そんなことない。凄く・・・すっごく嬉しかった。」

 陽子は下を向いた。

陽子「それに、約束も破ってないよ。今、こうして神崎君と話せて・・・私幸せだもん。」
静流「陽子・・・。」
陽子「ねぇ・・・神崎君は、私の事まだ彼女だと思ってくれる?」
静流「陽子が私の事をまだ彼氏だと思ってくれるならな。」

 私はフェンスの傍まで行き、陽子を抱きしめた。



 -8/20 AM11:00 ARS本部 シュミレーションルーム-

かりん「ん~~~っ!!疲れたぁ~、もうだめ。」

 ハッチを開けて降りてくるなり、桜は椅子に座って大きく背伸びして倒れた。

早百合「でも輝咲ちゃん中々の腕前だったね!」
輝咲「ありがとうございます!」

 この数時間の間で、輝咲の腕は確実に上がっていた。最初の方こそエイオスの圧勝だったが、途中から様々なルールやハンデを設けることで
何敗かしてしまった。素手オンリー、蹴りオンリー、相撲、敵機と300m以下の接近禁止、さらにはフィールドを変えて水中戦やら、雪合戦やら
、一撃喰らったら退場、バトルロワイヤルなどなど最後はゲームのような感じで遊んでいた。

早百合「いろんな試合やってみたけど、開始時に比べたら皆格段に数値が上がっているわ。」

 端末をいじりながら花山が言う。

早百合「さてと、それじゃ今日のシュミレーションは終わりっと!良いデータありがとね!」

 そう言うと、すたすたと資料とUSBメモリを数個持って部屋を出て行った。

佑作「なんだか、結構忙しい人そうだね。」
レドナ「メカニックってあぁ言うのが多いのか、うちが特殊なのか気になるな。」
暁「でも根はいい人なんじゃないか、旦那さんいるみたいだし。」
かりん「何その話、ちょっと聞かせなさいよ!」

 ぐったりしていた桜が一気に起き上がった。

暁「未来に行ったとき花山 梓っていう人に会ったんだ。ものすごく早百合さんに似ててさ。
  だから時代的にはもうすぐ男の子を生んで、その人が結婚して、それから梓さんが生まれたんじゃないかなぁって。」
輝咲「そしたら苗字が同じことも説明つくね。」
レドナ「さっきのアイコンタクトはそういう意味だったのか。」
暁「ほんと、察しがいい奴で助かったぜ。」

 その時、警報が鳴った。けたたましいサイレンの音と、佐久間の放送が聞こえる。

淳「鳳覇君!あと本部内にいるドライヴァーの皆!すぐにハンガーまで来てくれ!!!」

 いつもの陽気さを含まない焦りの色から、かなりやばい事態だというのがすぐに分かった。

佑作「なんか事故ったのかな?」
かりん「ありえるー。」
暁「でもいつもの様子じゃない、とにかく急ごう!」

 俺たちはシュミレーションルームを後に、ハンガーへと急いだ。


 -8/20 AM11:05 ARS本部 機神・疑似機神ハンガー-

暁「佐久間さん、どうしたんですか・・・あっ!?」
かりん「うわっ、マジで・・・?」
レドナ「何がどうなってるんだ・・・?」

 ハンガーに着くなり、その異様な光景に俺たちは驚きの顔を隠せなかった。
 そこには、エイオスから出てきた物体がアルファードと同化・・・というより、アルファードを取り込んでいると言った状態だった。
あっけに取られていると、佐久間の声が聞こえた。

淳「早く機体に乗って2機を引き剥がしてくれ!!」
佑作「力技なら、俺の出番だ!」

 佑作は走ってゲッシュ・フュアーに乗り込んだ。黄色い巨体が動き、未だに侵食を続ける機体とアルファードをがっちり掴むと、引き剥がそうと試みた。

佑作「は~な~れ~ろ~~!!」
レドナ「寺本と桜はアルファードを、俺たちはコイツを引き剥がすぞ!」
暁「あぁ!」
かりん「ったく、何なのよコイツら!!」

 エイオスとディスペリオンが謎の機体を掴み、反対側からゲッシュ・フュアーとアーフクラルングが引っ張る。だが、機体はビクともせず、謎の機体が
アルファードをどんどん飲み込んでゆく。遂には完全にアルファードの体半分以上が機体にのめり込んでしまった。
 これ以上は自分らの機体まで飲み込まれる可能性があるので、佐久間の指示で4機はそれから離れた。途端にそれは眩い光を放ち始めた。

暁「うっ!?」

 あまりの眩しさに腕で目を隠す。数秒後、その光の中からは美しい翼を持った何かが生まれていた。色はアルファードに酷似している。しかしアルファードのような
刺々しさはなく、龍のような力強さを象徴していたアイツとは裏腹に、鳥のような神秘さをかもし出していた。

暁「コイツは・・・?」
淳「榊君、アルファードをサモンしてみて・・・?」
レドナ「動くなよ!」

 レドナが危機的状況を作るべく、ディスペリオンの右手で輝咲を押しつぶそうとした。

輝咲「来て!アルファード!!」

 途端に鳥のようなそいつが短い腕の鍵詰めでディスペリオンの腕を掴んだ。

茜「輝咲ちゃんをドライヴァーと認識しているわけね、この子は。」

 ディスペリオンが腕を引っ込めると、その鳥も何事も無かったかのように腕を放した。


 EP25 END


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